来院される主な症状

首の症状

頚椎の構造

首の骨格は主に頚椎という骨で構成され、五感、運動、思考の源である脳のある頭部を支えるという重要な機能を持っています。上下の椎体は椎間板と椎間関節で接続し、屈伸と回旋運動の組み合わせで動きます。また周囲に多くの靭帯や筋があり、支持と動きを担っています。骨の中には神経や血管が通る穴もあり、これらを守っています。支持性と可動性を両立するためにこのような複雑な構造をしており、年齢とともに変性変化を生じることも多く、痛みやしびれの原因となることがあります。
頚椎側面像、MRI T2 強調側面像
首の症状

考えられる疾患

変形性頚椎症(頚椎症、頚椎症性神経根症、頚椎症性脊髄症)、頚椎椎間板ヘルニア、後縦靭帯骨化症、頚椎捻挫、骨折など

ワンポイント

頚椎に限らず、脊椎疾患で重要なことは神経症状の有無です。ここでいう神経とは脊髄神経と神経根を差します。神経を木に例えると、脊髄神経は幹、神経根は枝になります。頚椎由来の神経症状は肩から上腕の痛みや、前腕から手のしびれといった形で出ます。神経の支配領域に沿って存在することが特徴です。
治療は基本的に保存治療ですが、木の幹である脊髄神経の症状がある時は手術が必要となる可能性も出てきます。

肩の症状

肩関節の構造

肩関節はヒトの関節の中で最も広い可動域を有する関節です。その理由は、骨そのものが制動性を制限する形状ではないことに加え、肩甲上腕関節、肩鎖関節、胸鎖関節、さらには肩甲骨-胸郭といった複数の運動が連動する部位だからです。肩関節において運動療法がとくに大きな役割をはたすのもこのような特徴があるからです。
肩関節正面像
肩の症状

考えられる疾患

肩関節周囲炎(五十肩)、肩腱板断裂、石灰性腱炎、変形性肩関節症、肩関節唇損傷、骨折、脱臼、頚椎症性疾患など

ワンポイント

先述したように肩関節は最大の可動域をもつ関節です。とくに多いのがいわゆる五十肩と言われる肩関節周囲炎です。古くは江戸時代の「俚言集覧」という書物にも「およそ、人五十歳ばかりのとき、手腕、骨節痛むことあり、程すぐれば薬せずして癒ゆるものなり、俗にこれを五十腕とも五十肩ともいふ。」との記載があるとのことです。五十肩の病態として、組織の癒着、炎症性変化、退行変性などが報告されていますが、原因は個々にことなり、また重複していることもあるのではないかと考えられます。五十肩の定義は「明らかな起因を証明しにくい初老期の疼痛性肩関節制動症」ですが、病態が単純でなく、痛みの部位や性状も多彩で、画像検査の異常があったりなかったりということが、明らかな起因を証明しにくい、という言い回しにつながっていると思われます。
治療は内服薬、ヒアルロン酸注射、リハビリの3本柱ですが、とくに重要なのはリハビリと考えています。患者さんから、安静がよいのか、動かしたほうがよいのかとのご質問をいただくことがありますが、急性期を除けば肩は動かしたほうがよいです。大事にしすぎ、拘縮という状態にならないように、痛みを軽減させた状態でリハビリを行い可動域を広げることが大切です。

腰の症状

腰椎の構造

上半身のすべての体重を重力に抗して支えるために、ヒトの脊椎は弯曲をしています。頚椎は前弯、胸椎は後弯、腰椎は前弯です。通常、坐位をとると腰椎は後弯ぎみになります。体重を支えるには不適切な姿勢になり、かつ後弯は椎間板にかかる負荷が大きくなり、椎間板ヘルニアのリスクが上がります。特に腰痛のある方は、骨盤と腰の姿勢を意識し、長時間の坐位を避けることを心がけるとよいと思います。
腰椎側面像、MRI T2 強調側面像
腰の症状

考えられる疾患

変形性腰椎症、腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症、腰椎分離症、腰椎捻挫、腰椎圧迫骨折など

ワンポイント

二足歩行をおこなう哺乳類はヒトしかありません。直立不動の姿勢を取るためには、骨盤を立て股関節を伸展する必要があり、そのために殿筋群を発達させる必要がありました。さらに背筋群の発達と脊椎をS字に弯曲(腰椎は前弯)させることで安定した立位をとることが有利な状態を得ることに成功しました。
しかし、年齢を経ることや、悪い姿勢が日常化することで、この良好な骨の並び(アライメント)が崩れると、骨は変形し、椎間板には負荷がかかり、腰痛を生じるようになります。二足歩行によって得た繁栄と文明と引き換えに、ヒトは腰痛という悩みを神様から与えられたのかもしれません。

股関節の症状

股関節の構造

股関節の形状は骨盤側の寛骨臼という臼状のえぐれた部分に球状の大腿骨頭がはまり込んだ構造をしています。この構造により、重い体幹を支える起点であると同時に下肢との連結部でもあるため、負荷に耐える安定性と可動性を両立させています。ですから、寛骨臼のえぐれが浅いと上半身を支えるのに不利になり、軟骨が摩耗し、変形性関節症を生じやすくなります。特に女性は男性と比較し、寛骨臼が浅い(寛骨臼形成不全症といいます)割合が多いです。一方、可動性が低下すると周囲の仙腸関節、腰椎、膝などに負荷がかかり、それらに障害を可能性が出てきます。
元メジャーリーガーのイチロー選手が、ケガの予防とパフォーマンス向上のために股関節のストレッチングを欠かさなかったのは有名です。
正常股関節、寛骨臼形成不全症

考えられる疾患

変形性股関節症、寛骨臼形成不全症、股関節唇損傷、大腿骨頭壊死症、股関節炎、恥骨結合炎、大腿骨頚部骨折、腰椎疾患など

ワンポイント

股関節に限らずですが、年齢を経て退行性変化をきたしやすくなる関節(軟骨)を守るためには、関節にかかる応力をできるだけ軽減することが大切です。そのために有効なことは、一つは体重の減少です。身体を支える関節は負荷が小さいほど有利であるということはすぐにご理解いただけるものと思います。そしてもう一つは筋力強化です。股関節の応力を低減するためにとくに重要なのが中殿筋という筋肉です。これは腸骨(骨盤の外側の骨です)の外側から大転子(股関節部の外側にふれる部分です)に付着し、股関節を外転(外に広げる動き)する作用があります。これを鍛えるには横向きに寝そべり、上になった脚を伸ばしたまま広げ静止、という運動が効果があります。変形性股関節症にならず、手術に至らないようにするために、普段から筋肉を鍛えたいですね。

膝の症状

膝関節の構造

膝関節は下肢の真ん中で基本的には曲げる、伸ばすという1種類の動きをおこなっている関節です。しかしながら実はその中でわずかなねじれ、すべり、転がり、といった動きを伴い、スムーズな脚の運びをもたらしています。そしてそれは基本的に体重によって圧迫力がかかった状態でおこなわれており、常に過酷な状況にさらされながら私達を支えてくれているのです。そんな膝ですから、変形性膝関節症は下肢の関節疾患としてはもっとも身近な病気となっており、多くの方が悩みを持っておられます。
正常膝関節、変形性膝関節症
膝の症状

考えられる疾患

変形性膝関節症、半月板断裂、靭帯断裂、大腿骨内顆骨壊死、各所筋腱付着部炎、偽痛風など

ワンポイント

ヒアルロン酸という名前をよく耳にされることと思います。健康食品のテレビCMで聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。ヒアルロン酸は軟骨の成分のひとつですが、軟骨組織は、軟骨細胞、水、Ⅱ型コラーゲン、プロテオグリカンで主に構成されています。そのプロテオグリカンの構成成分が、ヒアルロン酸とそこにくっついたコンドロイチン硫酸、ケタラン硫酸などです。これらの物質は基本的には飲んでもそのまま軟骨に取り込まれるわけではありません。
病院には関節内に注入するヒアルロン酸の注射がありますが、これも膝の軟骨組織を増加させるまでの効果はありません。しかし注入されたヒアルロン酸は数日間関節内にとどまり、潤滑作用に寄与すると同時に、抗炎症作用により膝関節内の炎症を抑制すると言われております。また注入を継続していた方とそうでない方では、その後に手術を受けた割合に差があるという報告もあります。穿刺部からの感染症にさえ注意すれば長期的にも副作用はほとんどありませんので、我々整形外科医にとっては、膝の悪い患者さんの治療のためになくてはならないものとなっています。

足・足首の症状

足部の構造

足関節と足部はお互いに連携し、安定かつ複雑な動きに対応しています。足関節は後足部の関節複合体のうちでもっとも重要であり、距骨という骨が下腿の脛骨・腓骨の下端が作る陥凹にはまり込む「ほぞ」の構造をし、これにより足部を上下に向けることができます。さらに足部は水平方向や内外かえしの方向に動き、これらを組み合わせて足底面をあらゆる方向に向けることができます。この柔軟な動きにより、地面の起伏に応じ安定して立位歩行が可能となります。なので足首と足部の筋力や柔軟性を上げることで、バランス力が改善し、転倒予防につながります。高齢者の方は普段からぜひ心がけていただければと思います。
足関節正面像

考えられる疾患

足関節捻挫、骨折、足底腱膜炎、アキレス腱炎、扁平足障害、外脛骨障害、外反母趾、など

ワンポイント

誰しも足をくねったという経験は一度や二度はあるのではないでしょうか。このように我々に身近なケガである足関節の捻挫ですが、その身近さゆえに軽く見られていることがあり、捻挫したけどしばらくしたらあるけるようになったから病院には行かなかった、ということもしばしばあります。しかしながら、捻挫は初期治療をおろそかにすると足関節の不安定性を残し、いわゆる「捻挫がクセになる」ということがあります。捻挫といっても靭帯が断裂していることがありますし、またくるぶしの裂離骨折(剥離骨折)を生じていることもあります。受傷早期にしっかりと固定、安静をとることできちんと治癒にもっていくことが大切です。

肘・手首の症状

肘関節・手関節の構造

肘関節は上肢の中間にあり、肩と手を結ぶ連結部となります。肩は可動域が広いですが、肘は曲げ伸ばししかできません。しかしこれがないと手で取ったものを口に運ぶことができませんので、摂食行動という生きるために必要な動きは肘の屈曲があってこそといえます。一方の手関節は2本の前腕骨(橈骨・尺骨)で肘関節と連結し、肘と異なり自由度の高い動きを呈します。手関節の動きによって茶碗を持ったり、雑巾を絞ったり、神様の前で手を合わせたりすることができるわけです。
手関節正面像
肘・手首の症状

考えられる疾患

【肘】
上腕骨外側上顆炎(テニス肘)、変形性肘関節症、肘部管症候群、野球肘(内側側副靭帯断裂、離断性骨軟骨炎)など 
【手関節】
撓骨遠位端骨折、ドゥケルバン病、三角線維軟骨複合体損傷、キーンベック病、変形性手関節症など

ワンポイント

テニス肘という病名を聞かれたことがあるかもしれません。正式には上腕骨外側上顆炎といい、肘の外側の骨の部分の炎症です。症状は物を掴んで持ち上げる動作や、タオルを絞る動作で肘の外側から前腕にかけて痛みが出るというものです。年齢による変性や損傷に使いすぎが加わり発症すると考えられており、実際20代30代の患者さんは診た記憶がありませんので、年齢が影響しているのは疑いようがありません。私は患者さんに「齢のせい」とは言わないのですが、この病気は齢のせいが半分正解だと思います。実は私自身も数年来痛みを繰り返しております。活動に支障が出ることはない痛みですが、安静時にも違和感に近いジーンとした痛みを感じることがあります。教科書には運動時痛とありますので、安静時痛のある患者さんの訴えは若い時分には理解できませんでしたが、自分で病気になると理解が深まるものだと勉強になりました。

手・指の症状

手の構造

ヒトの手ほどに高度に進化した道具はないと言われています。その複雑で洗練された構造、とくに母指の固有な性質による対立運動のおかげで、ありとあらゆる動きを演出することができます。訓練された手は、うっとりするような美しい音楽、信じられない匠の技術、変幻自在の魔球などを生み出します。
また手は鋭敏な感覚器官でもあり、その情報により我々はさまざまなものを感知します。握手ひとつでいろいろなことを感じ、伝えることができるのは、手が単なる道具ではないことを示しています。
手正面像
手・指の症状

考えられる疾患

ばね指、手根管症候群、変形性関節症(ヘバーデン結節、ブシャール結節、CM関節症)、ガングリオン、関節リウマチ、マレット指など

ワンポイント

指や手背、手首などの皮下の腫瘤で比較的よくみられるものの中にガングリオンというものがあります。ガングリオンの大きさは米粒大から大きいものはピンポン玉近くのもの、硬さも柔らかいものから硬いものまでさまざまになります。無痛なことも多いですが、神経を圧迫するとその領域にしびれや痛みを生じることもあります。関節包や腱鞘と連続した袋状の構造になっており、内部に滑液の濃縮したゼリー状の内容物が充満しています。内部が液状なので、膨れたり縮んだり、大きさが変化することも多いというのが特徴です。無症状であれば放置しても構いませんが、有症状の方、気になる方は、穿刺し内容物を抜くと小さくなります。再発を繰り返す時は手術で摘出します。